卒業まで引退のない自動車部ですが、3年生はこの時期、授業で行っている課題研究が佳境に入って放課後も忙しくなってくるので、部活は自然と1・2年生が主体となって活動する様子がうかがえます。
それでも忙しい合間を縫って3年生が様子を見に来るのは、後輩がちゃんとやっているのか心配してのことではなく、面白い実験をやっているのを知っているからなのです。
本校自動車部はなかなか恵まれた施設設備の中で活動を展開できていると思いますが、中でも自慢の設備が風洞実験設備になります。
風洞と呼ばれるトンネルの中に一方通行の風を通すことでマシンが走行しているときの空気の流れを疑似的に再現することのできる設備です。
F1マシンの開発にも使われる風洞実験設備ですが、そんな大層な設備がどうしてここにあるかと言うと、歴代の先輩方のアイディアから生まれた自作品だというので驚きです。
とは言え部室を閉め切って送風機で外に向かって風を送ることで風洞設備の中に風が流れ込んでくるという至ってシンプルな設計。
シンプルではありますが、自動車部ではこの実験を基盤にして毎年新しいマシンの型を決めていくほど、重要な実験でもあり、部員たちが最もわくわくする実験でもあるのです。
来年度に向けた新型マシンのコンセプトは今年度の大会での経験を踏まえて「低重心」ということに決定していますが、現在はそれに伴ってアッパーカウルに突き出すタイヤ部分のラインどりを考案中です。
廃車が決まった今年度マシンのアッパーカウルの一部分を改良して実験していました。
タイヤが付き出るラインを左右で微妙に変えて、どちらがいいか検討しているようです。
実験を主導しているのは2年生の秋山くん。
「前回のマシンでは前方から中間ラインまでは空気がきれいに直線状に流れていっていたんですが、後方で上から流れてくる空気と下を流れている空気がぶつかって乱流を起こしている部分がありました。これを最後まできれいに直線で流すことができれば合格なんですけど。」
風洞の脇から細く切ったすずらんテープのついたタフトを挿し込んで、空気の流れを見てはその向きをマスキングテープで車体に貼るという作業を繰り返すことで、空気の流れを可視化します。
乱流が起きると走行抵抗が大きくなってしまいます。
この乱流を起こさずに、前端から後端まできれいな直線で空気を流すのが、なかなか難しい課題です。
部室を閉め切って送風機で風を起こしているので、風洞だけに限らず部室内にはずっと風が流れていて、軽い気持ちで取材に行くと室内なのに寒くてすぐに出たくなってしまいます。
風洞実験作業に当たっていたのは3人だけでしたが、そんな中で別の作業をしている他の部員たちが文句を言わないどころか楽しそうに作業していました。
来年度に向けてスケジュールが詰まっているため、やることが山積みでハイになっているのもあるのかもしれませんが、何より新しいマシンが作られているという高揚感が部室内に充満しているように感じました。
歴代の先輩方が残してくれた技術や立派な設備にも恵まれていますが、今の部員たちが築き上げるこの雰囲気こそ、本校自動車部の一番の強みなのかもしれません。